自閉症の男の子を抱えるシングルファーザーの奮闘記。学校とのやり取りや家族の話、息子の様子などをつづる。
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涙の散髪
[ ノノくん ] / 2005/05/07 12:08:46

 ノノは、髪に触れられるのがとても嫌いだ!それは、今始まったことではなくて、小さいときからそうだった。散髪は、かなり大変だ。
 以前は、ノノママが行っていた美容室に頼んで切ってもらっていた。それはそれは壮絶だった。
 まず、美容室に入ろうとしない。それを無理やり抱えて中に入る。暴れて泣き叫ぶノノを大人3人掛りで押さえつけて、散髪する。私は、ノノを抱きかかえるように抑制し、髪の毛まみれになりながら切ってもらう。傍から見たら絶対に虐待か拷問だ。実際、ノノも私もヘトヘトになる。
 もちろん、こんなやり方は、不本意だ。しかし、他に方法が無いのだ。
 ノノは、いつも女の子と間違われるくらいまで、髪の毛を伸ばしていた。前髪は、目に入るようになると寝込みを襲って切る。ぐっすり寝ているはずのノノの髪にそっとはさみを近づけるといつも彼は飛び起きて泣いた。だから毎回ほんの少ししか切れない。それでも何とかごまかして切っていくが、やっぱり最後には、女の子のような髪型になってしまう。そうなると、かわいそうだがまた強制散髪に連れて行き、くりくり坊主になって帰ってくる。この繰り返しだ。
 ノノは、小学校に入っても、散髪だけは、どうしても逃げ回った。小さいときは、なんとか押さえつけて拘束できたが、さすがに小学校2,3年生になるともう私の力では、押さえつけて置くこともできなくなってきた。
 それでも小さい頃よりは、我慢できるようになって、美容室の椅子に座って、「10数えるまで。」ガマン「1、2、345678910」って3秒くらいだろうか。我慢できるようになった。それはそれで進歩だが、結局最後は、押さえつけられて、涙、涙の散髪となるのだ。
 少し前、ここ3、4回位だろうか?ノノママの同級生のNちゃんがやっている美容室にノノママが連れて行くようなった。
 Nちゃんは、ノノママの相談相手となってくれているようで、頻繁に遊びに行って話を聞いてもらったり、アドバイスを受けたりしているようだった。
 それまでは、腕力が必要だったため散髪は私の出番だったが、「切れたら切ってもらうから」と言ってノノママがNちゃんの美容室に連れて行った。帰って来たノノの髪はちゃんと切られていた。「大丈夫だったの?」と私は訝しげに聞くと「大変だったけど、何とかなったよ!」と。Nちゃんは、何度も何度も「すわって!」と声をかけて、ちょっと切り、「いや〜」と逃げ出すノノに「すわって!」と気長に声をかけて切ってくれたそうだ。「いや〜あいつ気が長いから〜よくやるよ〜」とノノママは人事のように言う。「で、結局押さえつけなかったの?」私が一番聞きたったのはそこなのだが。「殆んど押さえなったよ!私雑誌読んでただけだから・・」それが本当だったら全く驚きだ!。Nちゃんに感謝せねば。
 それからノノママが何回か散髪に連れて行ったが、そのたびに「前より座ってられたよ!」「かなり座ってたよ!、今度一回見てみぃ!」とにわかに信じられないような話をする。私は、次回は絶対見に行こうと決心した。
 先日私はついに目撃することとなった。その出来事を。 ノノは、Nちゃんの美容室にすんなり入っていった。「ちょっきん。髪の毛ちょっきん。します。」と言って。前は美容室の前に来ただけで泣き喚いていたのに。Nちゃんは、優しく「ここに座ってね〜。直ぐ終るからね〜ちょーっとね〜」と言ってノノを座らせた。そしてエプロンを付けた。私は、エプロンを付けた姿だけでもう涙が出てきてしまった。だって一度も。。そんなこと不可能だったのだから。
 「はい。10数えるまでね!」いやそうにはしているが、座ったまま何とか我慢している。「ほらね!」傍らでノノママが得意そうに私に言う。「もうすこしねぇ〜」Nちゃんは、ゆっくり優しく言葉をかけながら、手は、神業のように早くどんどん切り落としていく。
 「だめーぇ」ノノが立ちあがったとき「ハイ、終わりだよ!」Nちゃんが言った。ノノママは、「あんた泣いてんでしょー!」私を覗き込んでニヤニヤする。泣かずにいられない。涙でかすむ。ノノママが「泣いてんの!N!なんだ!お前までなくなよ〜!」と。見るとNちゃんも泣いていた。「だって、凄いよ!今日は最後まで座ってたんだよ!初めに来た時は全然座ってられなかったんだよ!凄いよ!ノノちゃん!えらいよ!」
 Nちゃんは、泣いて喜んでくれた。私も感動でいっぱいになった。
 ノノママは、「へへ!でしょ!」と自分が褒められているかのように私を小突いた。

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